研究・教育紹介 RESEARCH

構造生命イメージング

構造生命イメージング

原子を見る眼と体内を見る眼

生命現象の理解から創薬へ

 私たち生物の体の中では、様々な現象が起こっています。生命現象を理解することは、病気が生じる仕組みを知ることでもあり、創薬への貢献につながっていきます。では、生命現象を理解するということは、どういうことでしょうか?ひとつの答えが、「生体分子の形や動きを目で見て納得すること」と言えます。 生体分子の形を知る研究領域が、構造生物学と呼ばれるものです。一方、生体そのものを見る領域は、バイオイメージングと呼ばれます。本研究室では、核磁気共鳴法(NMR)と磁気共鳴イメージング(MRI)を軸に、さまざまな方法を駆使して、生命現象を明らかにし、創薬に貢献することを目標としています。

NMRとMRIって?

 NMRとMRIは、強力な磁力と電磁波の力を用います。NMRは、主に試験管内でのスケールについて用い、目的とする生体分子の形や動きについての詳細な情報を得ることができます。一方、MRIでは生きた状態の動物を使って測定を行います。ですので、頭から足先まで全身を調べることができ、病気の形態、生体分子の挙動、動物に投与した薬の影響などを明らかにすることが可能です。こうした、試験管レベルと個体レベルでの情報を補い合うことで、生命現象をより深く知ることができ、創薬研究に大きな貢献をします。

  • NMR装置を用いた実験
  • 装置にマウスを設置する様子

どんな研究を行っているの?

1.白血球の動きを制御する因子に関するプロジェクト

 私たちの体は、免疫と呼ばれるシステムによって守られています。免疫システムの構築・維持には、ケモカインとよばれる60アミノ酸残基程度のタンパク質と、Gタンパク質共役受容体であるケモカイン受容体による白血球の遊走が必須であることが明らかになりました。しかし、ケモカイン受容体にどのようなタンパク質が結合し、シグナルを伝えているのかは、明らかになっていませんでした。 近年、東京大学松島綱治教授の研究グループによって、ケモカイン受容体に結合してそのシグナルを制御する細胞内分子「フロント」が発見されました(Nature Immunology, 2005)。当研究室は、ケモカインの発見者である松島研究グループと共同で、フロントによるケモカイン受容体認識機構を明らかにするため、NMRを用いた構造生物学研究に取り組んでいます。最近の成果としては、アルコール依存症治療薬であるジスルフィラムが、フロントを阻害してがんを抑制することを見出しました(Nature Communication, 2020)。新しい免疫性疾患治療薬開発の方向性を開拓したいと考えています。

2.匂いと行動を結びつける脳機能の解明に関するプロジェクト

 嗅覚は、生き物にとって重要な感覚の一つです。近年、動物の嗅覚を標的とした繁殖や害獣駆除等の家畜産業や、ヒトの嗅覚を標的としたアロマテラピー等の香料産業等は、市場規模が拡大しています。また、認知症の診断基準として嗅覚障害が注目されています。嗅覚の研究において、発達した嗅覚系を持つマウスは有用なモデル動物となります。マウスは、匂いを受容すると、その情報が1次中枢である嗅球に伝わり、さらに大脳に含まれる高次中枢に伝わります。その結果、匂い固有の行動応答が誘起されます。自然界には数十万種の匂い物質が存在し、マウスの脳はそれらの匂いを識別することで適切な行動を起こします。

 当研究室は、東京大学東原和成教授らと共同で、匂い物質によって脳のどの領域が働き、感情の変化や行動を引き起こすかを MRIを使って解明することを目指しています。MRIを用いると、脳の形態だけでなく、匂い刺激により誘起される脳の活性化を捉えられます。匂いを識別するメカニズムを応用し嗅覚に関連した家畜・アロマ産業や病気の診断に貢献したいと考えています。

脳を介した匂い物質の識別と行動の誘起

最後に、当研究室は、研究者の個性・独立性を尊重し、魅力あるサイエンスを発信することを目指しています。