
私たちの体の中では、常に膨大な量の「輸送」が行われています。栄養、酸素、そして病気を治すためのクスリ。しかし、クスリはただ飲んだり注射したりするだけでは、十分に力を発揮できないことがあります。そこで登場するのが、私たちの研究室が取り組んでいるドラッグデリバリーシステム(DDS)、いわば「クスリの精密宅配便」です。今回は、その主役である「アルブミン」というタンパク質を使った最先端の研究を紹介します。
私たちの血管の中を流れる血漿という成分。その中で最も多く含まれているタンパク質が、アルブミン(HSA)です。アルブミンは、ただそこに浮いているだけではありません。実は驚くべき能力を秘めています(図1)。
この「運び屋」としての才能と「長持ち」する性質に注目したのが、私たちの「アルブミンDDS」です。
どんなに優れたクスリでも、病気ではない場所(健康な細胞)に届いてしまうと「副作用」になり、本当に届いてほしい場所に届かないと「効果なし」になってしまいます。DDSは、クスリを「適切な時間」に「必要な量」だけ「狙った場所(作用点)」にピンポイントで送り届ける技術です。私たちは遺伝子組み換え技術を駆使して、アルブミンをさらに「賢い運び屋」に改造しています。
私たちが進めている、アルブミンを使った3つの具体的な研究を紹介します(図2)。
アルブミンは本来、糖(糖鎖)を持たないシンプルな構造をしています。そこに私たちは、遺伝子操作によって「マンノース」という糖を高い密度でくっつけた、世界初の「糖鎖付加アルブミン」を作り出しました。肝臓には「クッパー細胞」という、異物を食べる掃除屋さんのような細胞があり、その表面にはマンノースをキャッチする「受容体(レセプター)」があります。この糖鎖付加アルブミンを注射すると、まるで鍵と鍵穴のようにクッパー細胞が糖鎖を認識し、素早く「糖鎖付加アルブミン」を肝臓に取り込みます。これを使えば、肝臓の病気だけを狙い撃ちする治療が可能になるのです。
体内で発生する過剰なダメージ(酸化ストレス)を抑える「チオレドキシン」というタンパク質があります。非常に強力な味方ですが、分子サイズが小さいため、注射してもすぐに尿として捨てられてしまうという弱点がありました。そこで私たちは、遺伝子レベルでチオレドキシンとアルブミンを「融合(ドッキング)」させました。アルブミンと一体化したことで、チオレドキシンは血中に長く留まれるようになり、肝疾患や腎疾患、心臓病などの難病に対して高い効果を発揮することを証明しました。
さらに、アルブミンをギュッと凝縮して、100万分の1ミリ単位の「ナノ粒子」にする技術も開発しています。このナノ粒子の面白いところは、特定の場所に集まる性質を持たせられることです。
アルブミンDDSの研究が進めば、「より少ない量」で「より強く」効き、さらに「副作用が少ない」という、患者さんにとって理想的な医療に貢献できます。それは医療費の削減や、入院期間の短縮など、社会全体の幸せにもつながっていくはずです。私たちは現在も、より多くの臓器や細胞を標的にできる「さらに進化したアルブミン」の開発を続けています。