
いま、日本では成人の5人に1人が慢性腎臓病(CKD)と言われるほど、身近で深刻な病気になっています。腎臓が悪くなると、最終的には人工透析や腎移植が必要になるだけでなく、心臓の病気になったり、全身の筋肉が衰える「サルコペニア」を引き起こしたりして、命に関わることもあります。しかし、残念ながら根本的な治療法はまだ見つかっていません。そこで私たちは、なぜ病気が進むのかという「メカニズム」を解明し、新しい診断法や治療薬を作る研究に挑んでいます。
病気の進行には、体内で活性酸素が増えすぎて細胞がダメージを受ける「酸化ストレス(いわゆる体のサビ)」が深く関わっています。私たちは、「質量分析装置」という「分子の重さ」を精密に測る機械を使い、血液中の「アルブミン」というタンパク質の変化を調査しました。その結果、腎臓病が進むとアルブミンに特定の物質(システイン)がくっついた「酸化型」が増えることを発見しました 。これが、病気の状態を予測する新しいものさし(診断マーカー)になるのです(図1) 。
腎臓の機能が落ちると、本来はおしっことして外に出るはずの有害な物質が体の中に溜まってしまいます。これを「尿毒症物質」と呼びます。その一種である「パラクレジル硫酸」が、どうやって腎臓や血管にダメージを与えるのか、私たちはその詳しい仕組みを突き止めました。この物質が細胞の中に取り込まれると、活性酸素が発生して炎症が起き、病気がさらに悪化してしまうのです(図2)。
腎臓病になると筋肉が細くなってしまう(サルコペニア)のも大きな問題です 。私たちは、尿毒症物質や酸化型アルブミンが筋肉の細胞に取り込まれることで、エネルギーを作る「ミトコンドリア」が壊され、筋肉の成長が邪魔されることを発見しました。さらに、これを防ぐために、毒素を減らす薬(活性炭)や、ミトコンドリアを元気にする成分(カルニチンなど)を使うことで、衰えた筋肉や運動機能を回復させることにも成功しました(図3)。