
私たち生物は外界の温度を感じて生活しています。感覚神経で受容された温度の情報は脳で処理され、やけどを負うような危険な温度を避けたり、危険でない温度に対しても体温を一定に保つような応答(汗をかく、血管を収縮・拡張、服を脱ぎ着するなど)を起こすことで、生体の恒常性(ホメオスタシス)を保っています。このような温度を感じる機能に重要な役割をはたす分子として、温度感受性TRPチャネルが挙げられます。
温度感受性TRPチャネルは現在11種類が発見されています(図1)。これらは、上記のような温度感覚を伝える感覚神経だけではなく、一定の体温に保たれているような様々な組織・細胞(図1、赤字)でも機能しています。しかしながら、そのような体温環境で温度感受性TRPチャネル活性がどのようにして制御されているのか?、また温度感受性TRPチャネルの体温下活性にどのような生理的役割があるのか?、についてはほとんど分かっていません。私たちはこれらを明らかにしていくとともに、新規創薬ターゲットとしての応用を目指しています。
温度感受性TRPチャネルの一つであるTRPM2は、温かい温度に感受性を持ち、脳、膵臓、免疫細胞のような体温に保たれた環境で機能しています(図1)。私たちは、TRPM2が活性化する温度(活性化温度閾値)が、タンパクの機能調節に重要な役割を果たすリン酸化をはじめとした様々な生体内因子によって調節されていることを明らかにしてきました。
TRPM2の活性化温度閾値は、細胞内のCa2+イオンにより低下し、体温下の活性が上昇します。TRPM2リン酸化は、このCa2+の作用に拮抗することでTRPM2の活性化温度閾値を上昇させることが分かりました(図2左;野生型)。リン酸化部位であるスレオニン残基(Thr738)を、リン酸化を受けないアラニン(Ala)に置換するとリン酸化の効果が消失し、リン酸化を模倣する変異(アスパラギン酸; Asp)によりリン酸化の効果が再現されました。またTRPM2の立体構造より、リン酸化部位であるThr738(マゼンタ)は、Ca2+結合部位(赤)の近くに位置していることが分かります(図2右)。Thr738に大きなリン酸基が導入されることで、Ca2+の作用に影響を与えると考えられます。このような、温度感受性TRPチャネルの制御機構を分子レベルで明らかにする研究を行っています。