研究・教育紹介 RESEARCH

生殖機能学分野

生殖機能学分野

「遺伝子改変マウス・ラットを使った受精・発生メカニズムの解明」

研究目的

最新のデータを見ると、約4.4組に1組のカップルは不妊症の検査や治療を経験しており、約半数は男性側に原因があります。不妊症の場合、生殖補助医療と言って、例えば父性ゲノムDNAを含む精子を人工的に卵に注入(顕微授精)して、受精卵を得る治療が行われています。生殖補助医療を経て生まれる子供の割合は年々増加していて、現在では約10人に1人になっています。男性不妊症の原因を調べた報告を見ると、射出障害や精子が精巣で作られないといった原因は分かっている一方、約半数の原因は不明です。このような現状から、私たちは、遺伝子改変マウスやラットを用いて精子が卵と体内で受精する分子メカニズム解明を目標に、基礎的研究に取り組んでいます。

CRISPR/Cas9の登場により、遺伝子機能を個体レベルで調べることが容易に

2020年にダウドナ博士とシャルパンティエ博士がノーベル化学賞を受賞したように、ゲノム編集技術、特にCRISPR/Cas9の登場により、多種多様な動物種で内在性遺伝子を標的改変できるようになりました。私たちは、生活環が比較的短く、ゲノムの99%がヒトでも保存されていることなどから、主にマウスを用いて遺伝子改変を行っています。

ヒトゲノムが解読された結果、遺伝子の数は2~2.5万個だと推定されています。網羅的に遺伝子発現を解析する技術の進歩により、それらの遺伝子が発現する組織に関する情報はデータベースから入手できます。私たちは受精メカニズムに興味があるので、精巣や卵巣といった生殖組織で発現する遺伝子を順次欠損(ノックアウト、KO)するマウスを作製し、標的遺伝子の欠損が妊孕性に与える影響を調べています(図1)。また最近では、ヒトや家畜のサンプルを用いて不妊症リスク因子の探索にも取り組んでいます。具体的な研究成果を下記に少し紹介します。

体内で精子が卵と効率的に受精するためのメカニズムの解明

多くの哺乳類において、精巣で作られた精子は形態を完成しているものの、運動能力など卵と受精する能力は持っていません。それらの能力は、精巣の隣に存在する精巣上体と呼ばれる管組織をマウスでは10日ほどかけて移行して獲得します。その後、精子は精漿(主に精嚢腺や前立腺などから分泌される)とともに膣内や子宮内に射出されます。私たちは、精子のみあるいは精子と精漿の混合液をそれぞれ子宮内に人工的に注入したところ、精子と精漿の混合液の方が高い受精率を得られることを見出しました。この結果は、精漿成分が精子受精能力をサポートすることを示します。現在、精漿がどうやって精子受精能力に関わるのか、その分子メカニズム解明を試みています。

体内で精子が卵と出会うために必須なメカニズムの解明

精巣などの生殖組織に存在する30ほどの遺伝子をKOすると、KO精子は形や運動性は正常であるにも関わらず、卵の存在する卵管に移行できなくなります(図2)。ただ、その分子メカニズムはよく分かっていませんでした。最近私たちは、精子細胞膜表面に存在する糖転移酵素様タンパク質GALNTL5が子宮と卵管のつなぎ目(子宮-卵管接合部)に存在するタンパク質の糖鎖(N-アセチルガラクトサミン)と相互作用することで、精子は子宮から卵管へと移行して卵と受精できること(図3参考文献1)を見出しました。現在、子宮-卵管接合部に存在するGALNTL5と相互作用する因子の探索を試みています。

精子と卵の相互作用メカニズムの解明

卵管内で卵と出会った精子は、卵細胞膜と接着・融合して受精します。私たちは、精巣で発現する遺伝子を順次欠損させて、雄妊孕性に与える影響を調べる中で、卵との相互作用に関わる複数の精子タンパク質を見出しました(図4参考文献2)。これらの精子因子が卵因子とどのように関係して受精が制御されるのか、その分子メカニズム解明を目指して研究を進めています。

ラボHP:https://reproductive-biology-kuma-u.jimdofree.com/
参考文献1:「Noda T, Uriu R et al., Nat Commun 16(1), 8264, 2025」
参考文献2:「Noda T et al., Commun Biol 5(1), 332, 2022」