研究・教育紹介 RESEARCH

天然薬物学分野

天然薬物学分野

自然の力を利用して薬の種を生み出す天然物化学研究

薬の原料はどんなもの?

 人類は大昔から、薬用植物などの身近な天然資源を民間薬として使ってきました。その長い歴史の中で、自然資源の中には医薬品の種となる生物活性物質(=天然物)が含まれていることが明らかにされてきました。さらに、科学技術の発展にともない、植物や微生物、海洋生物といった様々な天然資源から数多くの天然物が発見され、医薬品の種として利用されてきました。実際、私たちが利用している医薬品の約半分は、植物や微生物、動物などの天然資源から発見された天然物、あるいはそれらをもとに開発されたものといわれています。このように生物が作り出す天然物は医薬品開発において重要な役割を果たしています。私たちの研究室では、微生物や海洋生物、植物といった様々な天然資源から生物活性物質を単離し、化学構造を決定するとともに生物活性を調べることで、医薬品の候補化合物となる天然物の発見を目指しています(図1)。

どうして生物は薬になるような天然物を作っているの?

 自然界では、生物は外敵から身を守り、自身の成長に有利な生存環境を構築するために、様々な生物活性物質を産生していると考えられています。例えば1 gの土の中には、100万個のカビ、1000万個の放線菌、さらに1億個の細菌が存在するといわれています。微生物は、自分の生活空間を確保するために、他の微生物が嫌う物質を体外に分泌していると考えられています。そして、そのような物質を私たちは抗生物質として利用しています。生物はこの他にも、環境ストレスから身を守るための化合物や、生殖の際にフェロモンとして働く化合物など、特殊な作用をもつ天然物を作り出しています。生物が進化の過程で獲得してきたこのような様々な機能をもつ天然物を、私たちは薬として利用しているのです。

天然物を用いてどんな研究をしているの?

 私たちの研究室では、微生物や海洋生物、植物など様々な生物を対象として薬の種となる候補物質を探索しています。以下にその研究の流れを説明します(図2)。①採集とエキス調製:阿蘇や天草をはじめ、九州・熊本を中心に様々な場所に赴き、天然物の探索源となる植物や海洋生物などを採集し、有機溶媒などで抽出することでエキスを調製します。また、微生物の場合は、植物や土壌などから単離した菌株を培養し、抽出物を調製します。②生物活性試験:採集した生物の抽出物を用いて、薬の種となる生物活性物質が含まれているかを調べます。例えば、がん細胞の培養液に抽出物を加え、がん細胞の増殖が抑えられるか確認します。増殖が抑制される場合、その抽出物の中に将来がん治療薬となる可能性のある化合物が含まれていると考えられます。また、抽出物が細菌の増殖を抑制する場合には、感染症治療薬が見つかる可能性があります。③精製:生物の抽出物や微生物の培養液の中には、多くの物質が混ざっているので、様々な分析手法を用いてその中から薬の候補物質を精製します。④構造解析:NMRや質量分析などをもとに純品になった化合物の化学構造を解析します。⑤作用機構解析:得られた物質が、どのような仕組みで薬としての作用を示すのかを調べます。

熊薬での天然物創薬研究

 熊本大学薬学部は、旧制薬学専門学校を前身とする長い歴史を持つ薬学部です。その伝統の中で、生薬学や天然物化学の研究が発展してきました。そして現在も、植物・微生物・海洋生物などが産生する天然物を対象に、新規天然物の発見と医薬品候補化合物の創出を目指す天然物創薬研究が進められています。私たちは、熊本大学薬学部に受け継がれてきた天然物化学研究の伝統と最先端の科学技術を組み合わせ、自然が生み出す多様な天然物に秘められた可能性を探っています。そして、人類の健康に役立つ新しい薬のもとになる有用な天然物を見つけ出すことを目指して研究に取り組んでいます。