研究室案内

薬学生化学分野

Department of Pharmaceutical Biochemistry

スタッフ

教授 杉本 幸彦ysugi(アットマーク)kumamoto-u.ac.jp
講師 土屋 創建sokent(アットマーク)kumamoto-u.ac.jp
助教 稲住 知明   tinazumi(アットマーク)kumamoto-u.ac.jp

研究テーマ

【研究プロジェクト名および概要】

1. プロスタグランジン受容体を核とした脂質メディエーターの生理機能発現フローの全貌(分子・細胞・個体レベルでの)解明(杉本幸彦)

2. マスト細胞の部位特異的な新規機能の探索と創薬への応用(杉本幸彦・土屋創健)

3. マイクロRNAによる食道扁平上皮癌の制御機構と治療への応用(土屋創健)

1)アスピリンの標的分子・プロスタグランジン(PG)は、発熱や疼痛、炎症作用をはじめ、さまざまな組織で多彩な作用を発揮します。PGの作用は8種類の受容体サブタイプを介して発揮されます(図1)が、そのアウトプットは受容体を発現する細胞環境に大きく依存し、作用発現の分子機構は不明です。薬学生化学分野では、8種類のPG受容体欠損マウスおよびPG受容体解析ツール(作動薬・抗体)を駆使し、神経・免疫・生殖系における時空間特異的なPGシグナルの生理的意義と分子機構の解明をめざします。また、PG受容体分子の立体構造および構造活性相関に基づく作動薬や遮断薬の分子デザインによりエビデンス・ベースの創薬を実践します。こうしたアプローチの組合せにより、最終的にはその産生から作用発現に至る脂質フロー(ホスホリパーゼA2、シクロオキシゲナーゼ、PG合成酵素、PG受容体、下流実働分子)の全貌を解き明かすとともに、脂質代謝物の一斉定量(リピドーム)解析により脂質メディエーター全体の分子動態を掌握することで、PG様脂質メディエーターを標的とした疾患の予防や治療に有用なバイオマーカー探索や創薬への応用を探ります。

2)マスト細胞は、アレルギーの原因となる細胞で、細胞膜表面のFcεRI(IgE受容体)にIgEを結合した状態で存在します。マスト細胞が、IgE抗原を検知すると即座に脱顆粒を引き起こし、ヒスタミンやプロテアーゼを放出して血管透過性亢進を引き起こすとともに、ロイコトリエンやPGなどの脂質メディエーター、さらにはサイトカインやケモカインを産生して白血球やT細胞を呼びよせます。マスト細胞は、全身の様々な組織や臓器に存在しますが、その機能は部位毎に異なっています。マスト細胞は、骨髄の血液幹細胞に由来する細胞で、未成熟なまま末梢組織へと移行し、その局所環境に適応した形で成熟するためです。薬学生化学分野では、全身の様々な部位に存在するマスト細胞に注目し、抗原依存性さらには非依存性の機能の多様性を探り、その病態発症との関連を明らかにすることで、新たな創薬標的の発掘を目指します。

3)食道癌は、進行が早く、転移しやすい悪性度の高い癌ですが、その発癌や転移のメカニズムは未だ不明な点が多く残されています。microRNAは約20-25塩基の短鎖のRNAで、配列相補性に基づき標的mRNAに結合し、RNA分解・翻訳阻害を誘導することでタンパク質発現を制御します。私たちは、食道扁平上皮癌においてmicroRNAの発現が変動し、そのいくつかが癌細胞の増殖を制御することを見いだしました。これらmicroRNAが発癌や転移にどういった分子機序で制御するのかを解明し、食道癌の予防や治療に応用することを目指しています。

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図1.シクロオキシゲナーゼ経路により産生される5種類のプロスタグランジンは、8種類の受容体を介してさまざまな生理・病態作用を発揮する.

【研究テーマのキーワード】

プロスタグランジン、プロスタグランジン受容体、エイコサノイド、アスピリン、非ステロイド性抗炎症薬、脂質メディエーター、メタボローム、シングルセル、ノックアウトマウス、GPCR、立体構造、急性炎症、アレルギー、自己免疫疾患、慢性炎症、マスト細胞、自然免疫、獲得免疫、女性生殖生理、代謝性疾患、接触皮膚炎、食道癌、マイクロRNA、トランスクリプトーム、ゼブラフィッシュ、発生、血液幹細胞、血管新生