薬学教育部長のあいさつ

『アートとサイエンスが共存する熊薬でともに学びましょう』

薬学教育部長森岡 弘志

熊本大学薬学部は、通称「熊薬」として知られています。創立約135年という日本でも最も古い歴史がある薬学部で、多くの優秀な卒業生を輩出しています。そのはじまりは今から約270年前の江戸時代に開設された「蕃滋園」という薬草園に遡ります。この蕃滋園由来の植物の一部は、現在でも熊薬の薬用植物園に保存されています。熊薬の前身は、明治18年に設立された私立熊本薬学校であり、その後、私立九州薬学校、私立九州薬学専門学校などの変遷を経て、大正14年に官立熊本薬学専門学校になりました。当時の薬学専門学校の多くは、調剤だけを専門とする薬剤師の養成機関でした。昭和20年に熊薬に製薬学科が設置され、薬剤師の養成だけでなく、創薬も薬学の本来の使命であることを全国に先駆けて示しました。昭和24年に熊本大学に統合され、薬剤学科と製薬学科の2学科制の薬学部として歩み始めました。

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現在、熊本大学薬学部には、薬剤師を育成する6年制の薬学科と創薬研究者を養成する4年制の創薬生命薬科学科という2学科制をとっています。主として、薬学科では、医薬品を適正に使用し、より使いやすいものに育てる「育薬」人材を、創薬生命科学科では、未来の新しい薬を作る「創薬」人材を育成しています。両学科とも、様々な病気の患者さんたちを、薬を用いて救う・サポートするという目標と理念をもっています。

熊薬は、独立した広大なキャンパスに立地し、敷地内にグラウンドや体育館があります。また、薬草園も有し、約1000種類の薬用植物と希少植物を守り育てつつ、地域の皆様に開放してきました。熊薬ミュージアムでは、古い医学書や珍しい実験器具などの貴重な史料や、世界の薬草など、熊薬とくすりに関するさまざまな資料を展示しています。キャンパスの様々な場所に彫刻が置かれ、さらにフェルメールの全37作品をリ・クリエイトで一堂に展示する空間もあります。熊薬は、アートとサイエンスと薬草が共存する全国に類を見ないクリエイティブな教育研究施設です。

熊薬の研究室は、化学系、物理系、生物系、そして、臨床系に関わる多様な研究分野から構成されており、これらの研究室がお互いに連携しあって、研究を進めています。中には、世界中の天然物、特に植物や微生物に焦点を当て、新しい分析技術や新しい評価技術を用いて、新たな薬を見つけようという探索的な取り組み、ならびに、発展途上国の公衆衛生に関わるような学際的なプロジェクトも同時に進められています。

薬学部は、創薬の専門家を養成するという重要な役割を担っています。社会に求められている新薬の開発、創薬研究を進めることは極めて重要です。熊薬では、今後ますます創薬研究に力を注ぎ、研究を通して人材を育成します。世界で活躍できる創薬や生命科学の研究者を、そして世界最先端の研究に携わる薬剤師を育てていきます。さらに、医療の現場で患者さんや医療スタッフから信頼される、広い知識と経験を備えた薬剤師の育成も進めます。2021年3月の薬学科卒業生の薬剤師国家試験合格率は約90%です。熊薬の財産は人です。熊薬の将来は、これから伸びていく若い皆さんの双肩にかかっています。私たちは、無限の可能性をもった若いエネルギーに期待し、全力で支援していきます。皆さんには、日本の薬学に貢献するために、熊薬で学び、考え、経験し、知識と技術を身につけることで、大きく羽ばたいて欲しいと思います。

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