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今日の創薬は病気の原因を究明し、病気に関連する受容体や酵素などを創薬ターゲットとして、その作動薬あるいは拮抗薬をドラッグデザインする方法がとられます。このような理論的背景のもとに創製された医薬品の中には、体内動態(吸収・分布・代謝・排泄)が原因で、薬としての開発を断念せざるおえないものが数多く存在します。中でも、代謝が原因となって、予測できない体内動態や副作用を示すことがあります。本研究室では、薬物代謝酵素としてカルボキシルエステラーゼを研究対象に選択し、カルボキシルエステラーゼの構造・機能を解析し、その結果に基づいたドラッグデザイン法の確立を目的として研究を行っています。 カルボキシルエステラーゼはプロドラッグをはじめとして、エステル結合を有する薬物の代謝に関与しており、哺乳動物のあらゆる組織に存在します。そこで、ヒトおよび前臨床試験に用いられる動物(ラット、イヌ、サルなど)に存在するカルボキシルエステラーゼ分子種のキャラクタリゼーション、基質結合部位の構造解析、健常時および病態時における組織特異的な発現調節機構について検討しています。また、これらの基礎データに基づいて、ヒトで有効なプロドラッグをデザインするための方法論を確立するとともに、in vitro・in situ実験データからエステル型薬物のヒトにおける体内動態を予測する速度論モデルの構築することを目指しています。これらの研究成果は、プロドラッグのみならず多くの医薬品の効率的な開発の道標になるものであり、前臨床から臨床試験への移行においても有用な情報になると考えられます。このように、本研究室では、あらゆる領域の薬に利用できるドラッグデザインの方法論を社会に向けて発信することを目的として研究を遂行しています。


エステル誘導体の生体内変換に関わるカルボキシルエステラーゼ各分子種の基質認識性および臓器特異性
エステル結合やアミド結合を有する薬物、毒物の代謝に関わる加水分解酵素であるカルボキシルエステラーゼは、そのアミノ酸配列の相同性からCES1~CES5のファミリーに分類されます。さらに一つのファミリーから、サブファミリー、アイソザイム(分子種)と分類され、同じ分子種に分類されているカルボキシルエステラーゼは、非常に良く似た性質を持っています。私達は、ヒトや実験動物にどの分子種が発現するのか、エステル誘導体の代謝にどのように関わっているのか、および臓器特異性について調べています。

カルボキシルエステラーゼの構造・機能解析
カルボキシルエステラーゼを昆虫細胞に大量発現させ、カルボキシルエステラーゼを精製して、その反応性や基質結合領域の構造解析を行っています。同じグループのアイソザイムでも反応性は全く違うこともあり、1つ1つの分子種の特徴を調べることによって、肝臓や小腸などの組織全体の働きを解析することができます。この1つ1つの酵素の働きを調べることによって、ドラッグデザインが可能になります。

Caco-2細胞を利用した分子修飾体の吸収カニズム
Caco-2細胞とは、ヒト結腸ガン由来の細胞を不死化したもので、薬が腸から吸収されるときの様子を調べる時に、ヒトの腸のモデルとして使われます。そのCaco-2細胞を用いて、私達が合成した分子修飾体(発売されている薬を、分子修飾という方法で改良したもの)が、どのように吸収されるかを調べてい ます。更に、腸管吸収の評価系として、Caco-2細胞をより有効にする実験系の改良を試みています。

Caco-2膜透過性および酵素分解データから、薬物速度論的手法を用いたエステル誘導体のin vivo体内動態の予測
上記のCaco-2細胞等による実験や、試験管内で行った酵素分解実験のデータから、実際ヒトが薬を飲んだときの体内動態(からだの中で、薬がどのような道をたどって動き、消失して行くのか)の予測を試みています。予測が可能になると、薬を実際にヒトが飲むことなく、およその体内動態を把握することがで き、体に有害な作用が現れたりするのを、未然に防ぐことが出来ます。