取組について

  趣旨・目的

「薬学と環境教育」クリックすると大きく表示されます。

環境は薬学の共通キーワード 薬学は、医薬品の供給・適正使用その他の薬事衛生を司ることで公衆衛生の向上と増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保することを使命としています。薬学には大きく3つの柱がありますが、第1は創薬、第2は育薬、そして第3は社会薬学です。薬学が主として取扱うものは医薬品と毒物であり、いずれも生体に最も作用の強い化学物質であることを考えると、その中心に環境問題があると言えるでしょう。まず、創薬においては、医薬品の研究・開発・製造過程で使用される化学物質や新規合成された化合物が、十分な管理下になければ環境汚染の原因になります。また、医薬品の製造には多大なエネルギーと原材料を必要とします。合成過程で利用する化学物質やエネルギーの量を抑え、収率よくクリーンに合成できる方法や、製品となる医薬品が排泄物や廃棄物となったあとの処理まで考慮した医薬品開発が今後必要と考えられます。薬効や毒性の評価に当たっても、使用する実験動物やエネルギーの量、試験期間・工程などを適正範囲で減らし、効率よくクリーンに行う方法の開発も必要と言えます。また、流通過程における環境負荷を低減するよう、包装や製品形態を工夫することも必要でしょう。そのような取り組みは、製薬業界のみならず化学工業界全般や他分野の産業に波及効果があると考えられます。


 育薬の臨床現場においては、医薬品の管理、廃棄医薬品や医療廃棄物の管理と適正処理、院内・院外感染予防や排泄物中の医薬品・代謝物による環境汚染の防止のほか、患者への医薬品および医薬品情報の提供方法改善などにより環境負荷を低減することができます。また、適正な薬物投与設計や処方鑑査を行うことにより過量投与を防止し、無駄な入院期間の延長を未然に防止して医療費の抑制をはかることや、evidenceに基づきCost effectiveな薬物を選択すること、PK/PDに基づく投与設計によって入院期間を短縮することなどもエコファーマの一部と言えます。


 さらに、社会薬学分野においては、いわゆる衛生・公衆衛生問題として、医薬品に限らずあらゆる化学物質による生体影響を薬学的視点から捉え、測定・解析・監視するとともに、専門知識と技術を学校教育や地域社会への情報提供などに生かすことができます。また、地域社会との関わりの中で、化学物質の適切な管理、地域経済・地域産業の発展と活性化に寄与でき、安全・安心でストレスの少ない街づくりなど都市計画・都市設計その他の行政にも積極的に取り入れていける分野が広く存在すると考えられます。さらに、グローバル化した現代にあっては、環境問題や食の安全の問題などは国内だけで解決できるものではなく、世界有数の先進国となったわが国が積極的に発展途上国の発展に寄与することで、現地住民の健康を守ると共に、日本国民の健康を守ることにつながります。このような視点から国際機関など海外で活躍する薬学人も今後増える必要があります。


 地球生命は、誕生以来常に外部環境の影響を受けてきました。環境の変化で最も影響を受けるのは、社会的弱者の方々です。そして、一旦健康被害が発生すると治療法が見つかるまでに多大な時間を要する場合や、非可逆的である場合もあります。そのように考えると、予防の視点が不可欠です。また、同時に福祉の視点も重要になります。広く予防薬学の観点から生命と環境との関わりを見つめ、経済との間に適切な関係を築きながら社会を発展させてゆくことが重要ではないでしょうか。このように、環境と福祉の視点を持つことで、薬学のあらゆる分野から薬学的視点に基づいて安全・安心で健康な社会の構築に貢献できると考えています。


 熊本大学薬学部では2001年に、意識高揚と実践力の習得を目的に、教育機関として世界的にも極めて早期に、また、薬学部としては始めて環境ISO14001の認証を取得し、これまで継続して、段階的に環境教育を充実させてきました。その結果、学生の意識改革が進みました。本取組では、上記の趣旨を踏まえて環境ISO活動をさらに発展させ、初年次からはじまる国内外での種々の体験型学習などを通して、環境と生命とのつながりを実感し、「いのち」への深い洞察力と環境マネジメント能力、国際的視野を育み、主体的に地域と国際社会に貢献できる行動力を育てます。本取組から、これまでの薬学の職域を越えて活躍し、薬学が本来持つポテンシャルを十分発揮して新たな社会(エコファーマ社会)を創造できる人材が育つことを期待しています。

ページの先頭へ

熊本大学 薬学部

〒862-0973 熊本市中央区大江本町5-1 TEL:096-371-4651
sky-somu@jimu.kumamoto-u.ac.jp