炭素原子は4本の結合手(4価)を有しており、そのすべてが異なる原子団と結合した場合、同じ構造式を持ちながらも鏡に映したような関係にある二種類の化合物が存在します。これが鏡像異性体であり、そのような性質を示す分子をキラル分子、またその中心となる炭素を不斉炭素原子と呼びます。
生体は高度に組織化された不斉な環境であるため、右手型と左手型の分子は生体内で厳密に識別されます。その結果、一方は優れた薬効を示す一方で、他方は副作用を引き起こす可能性すらあります。このような事情から、医薬品開発において目的とする鏡像体のみを選択的に合成することは、極めて重要な課題となっています。
その実現にはさまざまな方法が知られていますが、最も効率的かつ理論的に洗練された手法が「不斉合成」です。私たちの研究室では、この不斉合成に新たな展開をもたらすべく、新規反応の開発を中心に研究を進めています。