熊薬ミュージアム内に展示されているパネルをご紹介します。
有機概念図
 日本薬学会名誉会員薬学博士 藤田 穆先生は大正十三年私立九州薬学専門学校(本学)の教授に招かれ,昭和十七年官立移管後の第三代熊本薬学専門学校校長を拝命. 昭和二十年七月の熊本大空襲にて灰燼と化した熊薬の復興,さらに教育研究環境の整備充実に血滲む努力を払い現在の揺るぎなき基盤を築く.昭和二十四年熊本大学初代薬学部長に就任,昭和三十五年定年.後,請われて第一薬科大学新設に参画,学長として教学・経営に貢献.その間,日本薬学会副会頭等の要職にあって薬学の発展に尽瘁,その功により昭和四十五年勲二等に叙せられる.翌年四月七十六才で逝去.先生は若き日ドイツ留学中に発想,帰国後,完成の独創的「有機概念図」を発表,研究者として化学界に万丈の気をはく.熊薬百周年記念事業挙行にあたり同窓生一同,先生の御偉功を稱えて尊像を謹製し余徳を偲ぶ. 先生の徳と業,今に及んで愈々光を放ち此の尊像と共に永に朽ちぎるものならん.
(昭和六十年十一月吉日,熊薬百周年事業会会長,薬学部長 久野拓造 謹記より転記)
 『有機概念図は有機化合物の性状を、主として炭素数に基づく有機性(共有結合性)と、置換基の性質、傾向に基づく無機性(イオン結合性)に分け、有機化合物を有機軸と無機軸と名づけた直交座標上に位置させて、その性質の概要を理解させようとしたもの』であり、熊本大学薬学部 藤田 穆 教授により発想され、一つの学問体系として確立された。この学問体系は、昭和5年発行の藤田 穆著「有機分析」(カニヤ書店)にまとめられている。有機概念図は、その後、藤田 穆 教授の愛弟子で、本学出身の赤塚政実教授によりさらに発展され、その成果を含めて、1974年には「系統的有機定性分析(混合物編)」(藤田 穆・赤塚政実著、風間書房)として出版され、多くの研究者に引用されてきた。本有機概念図の発想、確立等のために、熊薬はわが国における有機分析の発祥の地と呼ばれることもある。 今なお医薬品,化粧品を始め広範な分野において、多数の化合物を対象にして,その構造からさまざまな物性(化合物の性質)を知るために利用されている.つまり,分析することなしに,化学構造から物質の顔(外観、臭い、物性など)を極めて簡便にかつ迅速に知る唯一の手段である.逆に、物質の顔から分子量や構造を推測することも可能である。

有機化合物の炭素と置換基に与えられている有機性・無機性という数値を用いて、当該分子の構造から有機性値と無機性値の総和を求め、その様々な性質(沸点,溶解性,生理活性,有害性,log P値[P は水-オクタノール分配係数]など)を推定するものである.


[揮発限界線]
この圏内の化合物は低温(室温前後)で揮発する性質を有している可能性がある.
※例えば,シックハウスの原因物質は揮発性であり,シックハウスで取り上げられる化合物はほとんどこの範囲に収まっている.さらに,香り分子は,揮発限界線の内側の匂限界線の中に入っている.

[第1生理作用圏]
薬理作用が最もあらわれやすい.医薬品はここに含まれるものが多く,食品の多くはここには入っていない.

[第2生理作用圏]
それぞれ個性が強く,反応性が高く分解もしやすい.食品では,三大栄養素の糖類とタンパク質がここに含まれ,水溶性ビタミンもここに入る.アミノ酸のフェニルアラニンとトリプトファンだけは第1生理作用圏に入っている.

[第3生理作用圏]
代謝が遅く,副作用も慢性的なものが多い.食品では三大栄養素の脂肪や脂溶性ビタミンが含まれる.難分解性・濃縮性化合物(環境ホルモンとして疑われている化合物など)もここに入る.

[感作限界線]
農薬による接触皮膚炎の起炎物質の範囲として定められた.
(三共出版「有機概念図」などから引用し,一部改変)
「以上の最新版の情報および『Excel用有機概念図計算シート』については 県立新潟大学国際地域学部の本間善夫先生のホームページ
http://www2d.biglobe.ne.jp/~chem_env/sheet/orgs_help.html
http://www.ecosci.jp/sheet/orgs_help.html をご覧下さい。
大変分かりやすくまとめられています。」

また、待望の新版の教科書が発刊されました。以下の関連情報もご覧下さい。

◎甲田善生・佐藤四郎・本間善夫,「新版 有機概念図 基礎と応用」, 三共出版(2008)
http://www.sankyoshuppan.co.jp/detail.php?id=310

◎有機概念図
http://www.ecosci.jp/ocd/

◎PDBsumのLigand-SITE情報と有機性・無機性
http://www.ecosci.jp/pdb/pdbsum_site.html

◎澤津橋徹哉・塚原千幸人・馬場恵吾・橋本知子・篠田晶子・大井悦雅・本間善夫・三浦則雄,『ポリビニルアルコールゲルを用いるゲル浸透クロマトグラフィーにおけるポリ塩化ビフェニルと絶縁油の分離メカニズム』,分析化学, 57(12),1019-1026(2008)
http://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku/57/12/57_1019/_article/-char/ja/