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2001年11月

あい(Polygonum tinctorium Lour.)
たで科(Polygonaceae)


アイは,種子を解熱,解毒に,生葉の汁を外用で虫刺されに用いる.藍染の服は虫刺されにも効果があり,野外での農作業に用いられたのもうなずける.藍染はエジプト時代(紀元前4−5千年)から行われたことがピラミド調査で分かった.古くから世界中に藍の文化が存在する.アイの植物はどこを見ても見事な藍色(青色)を出すとは思えない色合いであり,写真(2001年10月20日撮影,北里大学薬草園にて)のような見栄えのしない植物である.「青は藍より出でて藍より青し」は、中国戦国時代の思想家である荀子(じゅんし)の言葉で,「青色の染料はアイの葉より作るが,元の葉の色より美しい」と言う意味で,”教えを受けた生徒が先生よりも優れているときの例え”に用いられる.熊薬の学生さんはこの例えのようになるために努力されていると信じている.
「出藍(しゅつらん)の誉れ」も同じ意味である.また,福沢諭吉が「福翁百話」の中で「実に出藍の喩(たとえ)に漏れず」と,西洋に学んだ明治日本の急速な進歩を表している.
 アイの藍色は,アイに含まれる成分が,加水分解,酸化をへて二次的にできるインジゴ(Indigo)によるものである.藍染の妙の簡単な説明はIndigoをクリックして下さい.
 植物には,無色の化合物のインド−ル配糖体”indican”が含まれる.インジゴを模して作られた合成染料が明治末期にドイツより[人(じん)造(ぞう)藍(あい)]という名で安価に輸入され,アイの栽培が衰退の一途をたどった.ジ−ンズ等を青色に染めるのは合成染料が用いられている.明治中期までは全国で栽培されていたが,現在のアイの産地は徳島県である.アイの栽培,アイ玉作り,藍染などアイに係わる人の手は長年アイを扱うことで,藍色に染まっている.アイ玉造は,作業としては大変な力作業である.アイを放置すると,内部酵素により化合物が変化し(Indigoの説明を参考),藍色に変わる.その時に酵素による発酵を進めるために,自分で発熱する.自然の力は超省エネで素晴らしいと感じるときである.
 生薬で染料,食品の色付けとして用いられるものは多い,例えば,桜の皮(桜皮,さくら)は,花が咲く前に新鮮な皮で桜色に染まる.他に,腰巻きの赤色を出す,茜,紅花.栗きんとんの色付けにクチナシの実(山梔子,くちなし).インドカリ−のライスを黄色く染めるサフラン(サフランの雌蕊)又はウコン(鬱金).大島紬を染めるシャシンバイの皮には縮合型タンインを含み,これが泥染に重金属と反応して微妙な色をだす.万年筆のインクのブル−ブラックは,五倍子(ヌルデの虫瘤)に含まれる加水分解型タンニンと鉄とのキレ−ト化合物である.
人間は道具を作る道具を作った動物であり,いろんなものを生活に利用している.
 学生の皆さん,アイより出でる藍色のように,先生方,先輩を越せるように勉学に励んで欲しい.

(資料,写真提供 薬学研究科・分子機能薬学専攻・創薬基盤分子設計学講座・矢原 正治,2001.11.1)

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