熊本大学薬学部
 
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1999年6月

かき Diospyros kaki
かきのき科 Ebenaceae


 
桃栗3年柿8年,種を蒔いて実がなるまでの年である.カキの果実が利用されだしたのが中国で紀元前2世紀.日本では奈良時代に食用,平安時代には菓子として,栗,桃とともに用いられた.芭蕉の”里古りて柿の木持たぬ家もなし”の句のように,田舎には各家に柿が植えられ,冬場の貴重な糖分原料であった.秋の風物詩である干し柿は,渋柿の皮を剥き干すことにより水分が抜けると共に,内在酵素により,水溶性タンニンとアセトアルデヒド(ブドウ糖などが解糖経路をへて酢酸より出来る)が重合し不溶性のタンニン重合体となる.それと同時に多糖が分解されて,果糖,ブドウ糖,マンニト−ルができる.干し柿では糖分は50%にも達する.干し柿を作るには1カ月以上かかるが,せっかちな人は,エタノ−ル(熊本では焼酎を使う),炭酸ガス(ドライアイスで良い),熱湯を用いると,約1週間で渋が抜ける.甘柿は日本で生まれ,改良され,中国に里帰りをしたようである.
 薬用としては,ヘタ(柿蔕,シテイ Kaki Calyx )は,「しゃくり」や「げっぷ」止めに用いる(1日5−10g,丁子1g,生姜4gを加え煎じると良い).葉(柿葉)は鎮咳,内出血の止血として,潰瘍による出血などに,また,柿の葉には抗菌性が有り,柿の葉寿司,おにぎりを包んだりするのに用いる.干し柿を柿餅(シペイ)と呼び,吐血,喀血,血尿,痔瘻,下痢などのときに食べる.干し柿の表面の粉末を集めたものを柿霜(シソウ)と呼び,これを一旦加熱し飴状にしたものを柿霜餅(シソウペイ)と言い,いずれも咽の痛み,せき止めに用いる(風の咳には効かないらしい).完熟した柿は鎮咳を目的に慢性気管支炎に用いる.また,血中のアルコ−ル分を分解する作用があり二日酔いにも良い.柿渋は中国で高血圧の治療に用いられている.根も柿根(シコン)と言い,止血.下血,吐血に用いる.このように柿は食用だけでなく,糖分による滋養強壮を含め,タンニンなどのポリフェノ−ルの止血,抗菌,降圧などの作用を利用し民間薬としても用いられてきた.自然の恵みに感謝したい.田舎の柿の木は果実を誰もちぎらないまま鳥の餌になっている.昨今このような食品が私達の前から少なくなり,保存料のたっぷり入った食品がス−パ−,コンビニに並ぶのは寂しく,怖い.
 柿の木は折れやすいから登るな,枇杷の木は先まで行っても折れない.木の強さは植物の細胞のつながり方によるものだが,今の子供たちでこれらの木に登ってたわわに実った果実を頬張り,自然の営みを観察した子が何人いるだろうか.猿蟹合戦を思いだした.
 熊本大薬草園ではこの時期,ベニバナ,スイカズラ,タイサンボク,ドクダミ,ニッケイ,クチナシなどの花が咲いている.雨が降ってようやく阿蘇でも半月遅れの田植えが始まった.阿蘇・脊梁の山々が濃い緑に変わっている.シャクナゲも終り,ミヤマキリシマの時期である.6月27日には阿蘇・高森でハナシノブ コンサ−トが開かれる.

(資料・写真提供 薬品資源学講座・矢原正治,99/6)


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