熊本大学薬学部
 
  トップページ / 今月の薬用植物 / バックナンバー一覧 / バックナンバー
ワード検索
今月の薬用植物 今月の薬用植物トップ
バックナンバー薬用植物園

1998年1月

けし (Papaver somniferum)
けし (Papaver somniferum)


 
ナルコティックス(向精神薬)に属するケシは,地中海東部原産と考えられ,古くから栽培されてきた.西アジアでは6000年前に既にケシを表記する文字が有り,楽しみのため,幸せな気分になるための植物として取り扱われてきた.また,4000年前のスイスの遺跡からもケシの種子と果実が見つかっている.もともとは,油脂を多く含んだ種子の採取を目的に栽培されていたようだが,のちに麻酔性の作用が注目されるようになった.植物名の由来は,ロ−マ神話に出てくる眠りの神”ソムヌス(somnus)”で,ソムヌスがケシの束を持っていたり,ケシのジュ−スを持っていたりする.西アジアから,イスラム教徒により,インド,中国に伝えられた.ギリシャ語でケシを意味する”opium”はアラビア世界に入り,”afyun”となり,中国に入って,”a-fu-youg 阿芙蓉”,さらに”ya-pien 阿片”になった.イスラム教徒にとっては,ワインなどの酒は理性をくもらせると言って規制されたが,アヘン,ハッシュは禁止されることなく,催眠薬,さらには快楽を目的に用いられた.昨年(1997年)7月,中国に返還された香港は,1842年に終結したアヘン戦争により,イギリス領となったもので,それ以来アヘン中毒は中国の社会問題となり長くむしばみ続けた.現在は先進国で禁煙が叫ばれているタバコが,諸外国からの売り込みを受け,中国社会の問題となりつつある.日本では許可なくケシ,大麻,および,それに関連する物は,一切を所持,または,栽培をしてはいけない.ケシから取れるアヘン(阿片)から,ガンの末期患者などの鎮痛を目的に用いるモルヒネが,また,鎮咳作用の有るコデインが得られる.現在,日本はアヘンで約150トンを輸入している.モルヒネは脳の血液脳関門(blood-brain barrier)を通り,オピオイド受容体に作用し,鎮痛作用を示す.近年オピオイド受容体には3つのタイプ,m, d, kが提唱され,m受容体は依存性と,鎮痛を,k受容体は依存性がなく,鎮痛作用に関与していることが解明され,多くの化合物が合成設計されている.今後,これら受容体の解明により,よりよい依存性のない鎮痛薬が合成され,眠りの神ソムヌスが癌などの痛みの時に必要でないときが来るのであろうか.自然の恵み,モルヒネをこえる化合物を人間が作ることが出来るか楽しみである.(世界の植物を参考)

(98/1 生薬学研究室 矢原)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

トップページへ戻る


 
当ウェブサイトの著作権は、熊本大学薬学部に属します。 掲載内容および画像などの無断転載を禁止します。
熊本大学ホームページへ 医学薬学研究部へ サイト案内