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熊本大学
大学院生命科学研究部
環境分子保健学分野

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研究内容

GAPDHは、HIV逆転写過程そのものを阻害する因子となりえるか?

 Moonlightタンパク質という名称をご存知だろうか? Moonlightタンパク質とは、同一のタンパク質が「本業の機能」以外に全く関連のない「副業(Moonlight)の機能」を持つタンパク質を示す。グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)は、細胞質において脱水素酵素活性をもつ解糖系酵素である。解糖系酵素としての機能解析が十分なされた後は、単なるハウスキーピング遺伝子として魅力のない対象となった。しかし、近年の研究でMoonlightタンパク質の代表例と呼ばれる程にGAPDHの多岐にわたる機能(DNA修復、RNA結合活性、tRNA輸送活性、mRNA安定化等)が次々に明らかとなり、その存在価値が見直されている。興味深いことにトマト矮化病ウイルスが、自らの数少ないウイルス因子のみでは制御しきれない自身のゲノム複製の調節を、GAPDHのようなMoonlightタンパク質に担わせる例も最近報告されている (Cell Host Microbe (2008) 3:178-87.)。さらに、GAPDHは、A型や C型肝炎ウイルス、およびヒトパラインフルエンザウイルスのゲノムにも結合し、それらのウイルス複製に寄与することが示唆されている。
 我々は、最近HIV-1の複製を制御する細胞性因子を同定する過程で、HIV粒子内にGAPDHが取り込まれていることを明らかにした(Retrovirology (2012) 9: 107.)。その役割を解析したところ、「GAPDHはHIV逆転写過程のプライマーとして機能するtRNALys3のウイルス粒子内取り込み量を減少させ、ウイルス複製を負に制御する因子」であることを明らかにした。リジルtRNA合成酵素(LysRS)と複合体を形成しているtRNALys3は、HIVの前駆体タンパク質に結合して粒子内に取り込まれ、HIVの逆転写過程に必須の分子であることが知られているが、GAPDHはその取り込みそのものを阻害していることを明らかにした。つまり、HIVの逆転写過程そのものを阻害できる治療薬を開発できる可能性を秘めている。我々は、変異を獲得しやすい逆転写酵素といったウイルスタンパク質の活性を直接阻害する抗ウイルス剤を開発するのではなく、宿主細胞性抑制因子GAPDHの機能を利用して逆転写過程そのものを阻害する新たな治療戦略を創造したいと考えている(図1)。

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