ケシ


Papaver somniferum   ケシ科

   ケシの花と言いますと一般の方はポピーを思う浮かべられるでしょう。しかし、薬学を卒業された方は薬用で麻薬のケシを思い浮かべられることでしょう。薬用のケシは、学生時代、生薬学の教科書でお目にかかったのが最後の方が多いのではないでしょうか。原植物名をPapaver somniferum Linneと言い、この未熟果実に傷を着け出てくる白色の乳液を放置しておく黒褐色に変化します。これを乾燥し粉末にしたものがアヘン(阿片、Opium)末です。乾燥アヘンは国内で年間約5kgが供給されているにすぎず、不足分(約100〜120トン)はインドから輸入されています。その内8〜10トンがモルヒネの原料として使われ、残りがコデイン、ジヒドロコデインなどの原料として使用されています。モルヒネは癌の末期患者の鎮痛剤として用いられ、その必要量はますます増加の傾向が有り、輸入増の確保、国内での栽培が検討されています。モルヒネの単離は、薬学の始まりと言っても過言ではないでしょう。阿片は、人類が数千年も昔から鎮痛薬として用い、古代エジプト以来、錬金術師などがその「精」を追及してきました。19世紀の初頭、ドイツの薬剤師Serturnerは、阿片の中から塩基性物質を結晶として単離し、鎮痛・催眠性を示すことからMorpheus(夢の神で眠りの神Somnus の息子)に因んでMorphineと命名しました(1806年)。その研究成果は、化学者の注目を有機化合物の研究に向けさせる大きな力となりました。モルヒネをメチル化すると鎮咳性の強いコデインに、アセチル化するとヘロインに誘導することができます。モルヒネは麻薬性を有しているため、非麻薬性鎮痛剤の合成が行なわれていますが、未だモルヒネに勝る鎮痛作用を示す化合物は得られていませ ん。近年、脳内からモルヒネと同じ受容体に作用する、オピオイドペプチド(鎮痛ペプチド)が見つかっています。モルヒネの絶対立体構造は究極の構造決定手段であるX線結晶解析によって決定されました。モルヒネの構造は紙の上に書くと平面的ですが、逆T字型の構造をしているのがわかります。ケシの乳液(あへん)は大変苦く、一度なめると一生忘れられない味です。植えてよいケシ(ポピー)と、植えてはいけないケシの簡単な見分け方は、薬用のケシはポピーに比べ、全体的に白っぽい(ワックス質である)、毛が少ない(ほとんどない)、葉などをもむと大変嫌な臭いがする、などです。ケシの種子は、「あんパン」の上にのっている小さな粒です。大麻の種子と同じように、麻薬性の化合物は含まれないため、食用として用いられています。
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