甲斐広文教授らの研究成果がMolecular Cell (表紙採用)に掲載されました。

細胞内の異常なタンパク質を取り除く新しいメカニズムを発見

血液中などに存在するタンパク質は、体の中の細胞で作られ、正常な形になったものだけが細胞の外(血液中)に分泌される。一方、細胞の中で作られ、形が異常なものは、細胞の外に分泌されずに、細胞の中で分解されていく。これは、生体を常に一定に維持するためのいわゆるタンパク質の品質管理のメカニズムである。

 熊本大学薬学部(生命科学研究部 遺伝子機能応用学分野)の甲斐広文教授を主としたグループ(佐藤卓史博士、迫 康弘修士、庄 美里学士)は、今までわかっていた、タンパク質の品質管理の仕組みが、万が一、異常になった時にも、あるいは、既存の分解機構では、処理しきれないくらい異常な形のタンパク質が沢山できてきた時にも、バックアップ機構として働いてくれる、さらに新たな品質管理の仕組みがあることを発見した。蓄積した異常なタンパク質が細胞の機能に影響を与えないようにするために、細胞の小胞体内に存在するSTT3Bという糖転移酵素が異常なタンパク質を認識し、糖鎖を付加するという新たな分解機構を介して、異常なタンパク質を処理していくということを示した。生体は、様々なバックアップ機構を幾重にも持っていることにより、危機的な状況においても、正常な状態を維持しようとしているという。この一連の研究は、甲斐教授らが研究している、遺伝性難病である家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の治療薬開発研究の過程で偶然発見された。今回の知見は、FAPの原因タンパク質トランスサイレチンの細胞内における新たな挙動を明らかにしたものでもあるが、直接、FAP治療法の開発に繋がるかどうかは今後のさらなる研究の進展にかかっているという。

 本研究成果は、アメリカ科学誌Molecular Cell(モルキュラーセル)の7月13日号に発表され、本号の表紙にも紹介された。

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