Q.1 ウコンについて

一般 ウコンは食品としてTurmeric(ターメリック)と呼ばれ、カレー粉の原料である。カレ−が黄色いのはウコンの黄色色素(curcumin:クルクミン)によるものである。最近の健康志向の影響からか、一般消費者のウコンに対する関心は異常な盛り上がりを見せている。一部の健康雑誌は「ウコンは万病に効く」ようなイメージを一般消費者に与えているようである。ウコンとひとことで言っても実は数種類あり、日本では通常アキウコン(Curcuma longa:ショウガ科)のことを指している。不思議なことに生植物においてはウコンとハルウコンの場合、中国と日本では逆を意味する。日本のウコンのことを中国ではキョウオウと呼び、日本でキョウオウと呼ばれているものが中国ではウコンと呼ばれている(表1)。

表1:ウコン属(Curcuma L.)の日中相違表
学名 生植物名 生薬名
日本 中国 日本 中国
根茎 根茎 塊根
Curcuma longa
=C,domestica
ウコン 薑黄(姜黄) 鬱金・宇金 薑黄(姜黄) 鬱金(郁金)
Curcuma aromatica ハルウコン 鬱金(郁金) 薑黄・姜黄 薑黄(姜黄) 鬱金(郁金)
Curcuma zedoaria
=C,aeruginosa
ガジュツ 莪朮 莪朮 蓬莪朮 鬱金(郁金)

通常、ウコン(アキウコン)は食用、ガジュツは芳香性健胃薬として用いられていて、ハルウコンはその中間であるが、ウコンとハルウコンを混同してしまっている人も少なくない。しかし、これらは成分的に異なるので、家庭栽培のものを使用する場合にはまずどちらかを判別することが必要である。簡単な方法は、花の咲く時期や根茎の切断面を確認する方法で、春に花が咲き、根茎を折ってみて黄色いものはハルウコンである。

黄色色素クルクミノイドはウコン、ハルウコン、ガジュツの中ではウコンが最も多く、ハルウコンの約10倍量を含有している。一方、ガジュツには含有されていない。これらのことを考えると、黄色色素の機能性を利用するにはウコン、精油成分の機能性を利用するにはハルウコンが適しているといえる。

また、生の植物と生薬との成分的違いは、植物ではα-クルクメン、ar-ターメロンの含有量が低く、α-ターメロン、ジンギベレンの含有量が高かった。これは修治あるいは保存の過程でジンギベレンはα-クルクメンに、α-ターメロンはar-ターメロンに酸化されるからである。また、栽培種や栽培地によってクルクミンなどの黄色色素の含有量が異なることもわかっている(表2)。

表2:含有成分の違い
鬱金(東京、台湾市場品)
ターメリック(東京市場品)
kunyit(インドネシア市場品)
curcumin含量高い
bisabolane型含有
姜黄(中国昆明、福州、厦門、北京市場品) curcumin含量低い
germacrone型含有
引用:東京都立衛生研究所の上原真一博士の研究報告より

一般に医薬品としてのウコンは利胆薬として肝臓炎、胆道炎、胆石症、カタル性黄胆に用いられるほか、芳香性健胃薬として用いられる。機能性としては、抗酸化、内分泌系の亢進、生体酵素の調節、癌化の抑制などが報告されている。

行政的には、ウコンは日本薬局方外生薬規格に収載されており、食薬の区分の判定表では「1−b成分で主として医薬品として使用されるもの」に分類されているので剤型・表示などに注意が必要となる。ガジュツは日本薬局方に収載される医薬品原料、ハルウコンは医薬品原料の規格には収載されていない。

ウコンというと肝臓にいいようなイメージを与えがちだが、GOT、GPTは下げるが肝臓細胞の働きまでも抑えてしまう傾向があると考えられるので、体に良いといって年配者が多量に長期連用する際には十分に注意した方がいいと思われる。糖尿病に対するウコンの直接的効果に関する資料は見あたらないので、あまり期待しすぎない方がいいようだ。また、ウコンは体を冷やす作用があるので、冷え性の人はあまり利用しない方がいいだろう。

表4:主なウコン類の特徴
和名 ウコン
(Curcuma longa)
ハルウコン
(Curcuma aromatica)
ガジュツ
(Curcuma zedoaria)
別名 アキウコン、ウッチン(沖縄)、キゾメグサ、ターメリック キョウオウ、ハルウッチン(沖縄) ムラサキウコン、シロウコン、ガゼツ(鹿児島)、ウスグロ
成分 黄色色素(0.3%):
クルクミン(胆汁分泌促進)
その他誘導体

精油(1〜5%):
ターメロン(胆汁分泌促進)
ジヒドロターメロン…合計50%
ジンギベレン…20%
d-αフェランドレンシネオール(胆汁分泌促進、健胃、殺菌、防腐)

澱粉、脂肪油他
黄色色素:
クルクミン(胆汁分泌促進)

精油(約6%):
α-クルクメン(抗コレステロール)
β-クルクメン…合計約65.5%
セスキテルペン
アルコール…約22%
カンファー…2.5%

澱粉、樹脂、有機酸他
精油(1%):

シネオール(胆汁分泌促進、健胃、殺菌、防腐)
ジンギベレン
クルゼレノン
ゼデロン
クルクモール
ピネン
カンファー

澱粉、脂肪油他
葉の形状 葉の表裏ともにつるつる
花の色は一般的に白色〜淡緑白色
葉の表はつるつる、裏はビロード状(繊毛)
花の色は一般的に淡赤紫色
葉の表裏ともにつるつる
花の色は一般的に赤紫色
開花期 盛夏〜初秋 晩春 晩春
根茎 卵型〜勾玉状外面は穏黄橙色〜黄褐色、切断面は黄橙色〜淡黄色 卵型〜勾玉状外面は穏黄橙色〜灰茶色、切断面は明黄色〜淡黄色 卵型〜勾玉状外面は穏黄橙色〜暗灰褐色、切断面は淡青味緑色〜青白色
苦味(2)清涼感(2) 苦味(4)清涼感(4) 苦味(5)清涼感(5)
効用 スパイス、着色料(タクアン)、染料、観賞、薬用(健胃、利胆、鎮痛、止血)、クルクマ紙 薬用(通経、駆お血、止血、利胆) 薬用(健胃、駆風、鎮痛、通経、利胆)
禁忌 月経過多、妊婦 月経過多、妊婦
薬理作用 胆汁分泌促進作用、利尿作用、抗菌作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用、抗酸化作用など 胆汁分泌促進作用、胃液分泌促進作用、抗潰瘍作用、抗菌作用、抗アレルギー作用など 胆汁分泌促進作用、胃液分泌減少、胃潰瘍形成抑制、パパベリン様作用、弱い抗酸化作用など。
用法 1日量6~20gを煎じ、3回に分服。粉末を水で練ったものを痔や切り傷、腫れ物に塗布することもある。 粉末は1日1.5〜3g。 粉末の1日最大量は3g。
備考 日本薬局方外生薬規格に収載。食薬の区分では「1−b成分で主として医薬品として使用されるもの」に分類される。 医薬品原料の規格には収載されていない。 日本薬局方に収載される医薬品原料。

参考資料:
1) 赤松金芳,新訂 和漢薬,医歯薬出版,1980
2) 香月茂樹,今、話題のウコンとその仲間,薬用植物シンポジウム要旨集,1999/5広島大学
3) 医学生のための漢方医学,日本TCM研究所 編集,1995
4) 難波恒雄,原色和漢薬図鑑,保育社,1980
5) ウコンの薬効,日本医事新報,3702,141,1995
協力:熊本大学薬学部薬品資源学講座 矢原正治先生