はじめに  

創薬研究センター・プロジェクト研究部門の一つとして,平成18年4月に,人工血液プロジェクトが新設されました.このプロジェクトは,輸血に代わり得る人工血液を開発するものであり,早稲田大学,慶応大学,(株)ニプロ,(株)オキシジェ二クスの共同開発のもと,遂行しております.その中でも,我々は,体内動態解析を中心とした安全性試験に携わっており,現在,臨床試験(Phase I)へ向けた最終段階の研究を進めております.

プロジェクト概要

人工血液の開発

献血血液による現行の輸血システムには,AIDSや肝炎,あるいは未知ウィルスの感染の可能性を始め,同種免疫抗体の出現や輸血合併症 (GVHD) ,医療過誤による血液型不一致等の問題が残されています.また,献血血液の採取や検査,供給の煩雑性,これらにかかる経済的負担も大きく,さらに少子高齢化に伴う献血志願者の減少も輸血システムの問題として懸念されています.加えて,赤血球の保存期間は冷蔵で3週間と短いため,自然災害発生等の緊急時における大量の需要に対して,十分な血液供給が困難な状況にあります.

このような問題を克服するために,輸血に代わり得る酸素輸液の開発が強く望まれ,高純度・高濃度ヘモグロビンをリン脂質二重膜で被覆した,細胞型粒子ヘモグロビン小胞体(以下HbV)と組換え型ヒト血清アルブミン (rHSA) に疎水性の合成ヘム (FeP) を効率よく包接させたアルブミン‐ヘム複合体 (rHSA-FeP)が考案され,粘度・膠質浸透圧・酸素親和性・体内滞留時間の調節が可能であること,また,動物投与試験により十分な酸素輸送能を発揮することが証明されてきました.我々は,現在、臨床応用へ向けた最終段階として,これら人工血液の体内動態特性の詳細について検討しています.