○先端DDS寄附講座研究紹介○

ナノ粒子化、及びレシチン化を用いたDDS研究

医薬品は疾患部位へ必要な濃度で必要な時間作用して初めて、その治療効果を発揮します。一方、他の部位へ医薬品が高濃度で長時間作用することは、その副作用につながります。ドラッグデリバリーシステム(DDS)技術は、医薬品の治療効果を最大化するために、薬剤の作用部位・時間・濃度を制御する創剤技術であります。言い換えれば、医薬品が最大効果、最小副作用をもって働くように、医薬品を疾患部位へ適当な量で適当な時間だけ作用させる技術であります。具体的には、薬剤の放出制御・コントロールドリリース(持続的に放出させ、血中濃度を長時間一定に持続させる徐放化など)、ターゲティング(疾患部位に選択的に移行させ、他の部位での副作用発症を防ぐ)、吸収改善(消化管吸収されにくいため注射でしか投与できない薬剤(蛋白質など)を経口投与可能にし、患者の QOL(クオリティオブライフ)を改善するなど)を行う技術です。

 我々はどんなにすばらしい医薬品の種を発見しても、DDS技術がなければ臨床応用出来ないこと、及びDDS研究は薬学部以外では出来ない(即ちDDSの研究を行うことが、社会から薬学部に求められている)ことなどから、最近DDSの研究を開始しました。DDS研究は医薬品開発に直結した研究テーマです。例えば我々が共同研究している水島裕博士(東京慈恵会医科大学DDS研究所長)は、DDS技術によりPGE1を患部へ効率的に運ぶ方法を開発し、年間数百億円も売れているリポPGの開発に成功しました。DDSの研究により、熊本大学から画期的な新薬が産まれると私は期待しています。

 具体的にはPLGAという高分子ポリマーを使ってナノ粒子(直径数十〜数百ナノメールの粒子でその中に医薬品を封入させることが出来る)を作成する技術(様々な大きさのナノ粒子を自由に作成することが出来る技術)を確立しています。即ち、医薬品を含むナノ粒子の大きさを変えることにより、医薬品の消化管での吸収を促進したり、疾患部位だけに医薬品を送達することが可能になります。

また現在連携企業であるLTTバイオファーマ(株)が臨床試験を行っているレシチン化SOD(活性酸素除去タンパク質であるSODをレシチン化することにより、組織移行性を高めた医薬品)の潰瘍性大腸炎に対する治療効果に関しても基礎研究を行い、その作用メカニズムの解明を行っています。